眼鏡をかけるのは、溺愛のサイン。
「そうか」
エレベーターが開いて私がボタンを押そうと乗り込むが、片手を上げて制された。そして自分でボタンを押すと、壁にもたれ此方を睨んでくる。
私は気づかないふりをして窓から外の風景を見ていた。
眼鏡をしていないときの社長は、目が怖いし後ろに流した髪が一ミリも隙がなくてなんだが緊張してしまう。
「俺は運命と思っていたが、君には違うということか」
声があまりにも低くて、怒ってしまったのかと身構える。
ちらりと横目で伺った社長は腕を組み、地面を見て睨んでいた。
あの日、取引先の会社が新作の女性の靴を社長に渡した。その靴が私にぴったりだった。私はその日、ヒールが折れて困っていた。
確かに偶然が重なって、奇跡的な展開にはなったけれど……。
私の隣にいる方は、うちの会社の社長でそれでいて怖いけど息を飲むほどのイケメン。
方や私は、そこらへんに居そうな一般的な普通顔で、少し身長が低いのがコンプレックスな地味女。
自分の口から運命なんて言うのはおこがましすぎる。
「運命だと、素敵ですね」
そんな風に笑ってごまかすと、社長は少しだけ頬の筋肉を緩めたような気がする。
気が、する。だけなのだけど。
「まあ、可愛いから、今はそれでよしとしよう」
怖い顔で可愛いと言われても、子ども扱いされているようにしかみえない。