眼鏡をかけるのは、溺愛のサイン。
メールの問い合わせやデータをまとめながら、大きなため息が出てしまう。
社長がいると緊張して息を吐くのも気をつかってしまうからだろうか。
仕事を始めて二日目なのに、緊張からお腹が痛い。
「顔色が悪いですが、大丈夫ですか?」
片野さんが心配げに声をかけてくれたので、出来上がった分のデータを移しつつ、ちらりと見る。
「片野さん、私って子供っぽいでしょうか」
「はて。沢渡さんが子供っぽい?」
首を傾げる片野さんに、つい身を乗り出して聞いてしまう。
「例えば、今日は薄いローズピンクの口紅なんですが、全然こう、大人っぽく感じないなら真っ赤な口紅に思い切って青いアイシャドウとかして、頬にもいっぱいチークして」
「え、えーと、うーん。沢渡さんの清潔感ある今のままでいいと思うよ」
今度お孫さんが生まれるという50代の片野さんに、私は何を聞いてしまっているのだろう。
「社長が、可愛いって言うんですがそれって子供とかぬいぐるみとか見て言う感じなんです」
「ああ、なるほどね。そうだね、どっちかというとマスコットキャラかなあ」