眼鏡をかけるのは、溺愛のサイン。
うんうんと頷かれ、泣きそうになる。
確かに胸もないのでボタンを開けても意味もないし、真っ赤な口紅つけても子供が親の化粧を悪戯したみたいに似合ってないだろう。
「でも、でも、私は社長の秘書になったからには、淑やかで落ち着きがあって、社長が『あれだが』『はい。できております』とか先回りして仕事してデキる秘書になりたいというか!」
イメージしていた格好いい秘書に程遠い見た目と、仕事の遅さに思わず泣きたくなる。
「君はまだ二日目の社員。しかも派遣です。夢ばかり見ていられる仕事ではないですよ」
ぴしゃりと言われて、自分の馬鹿さ加減に恥ずかしくなる。
「ここは君の夢のお城ではなく、社員500人抱えたオフィスで、事業開拓により人手が足りない今、そんなふわっとした気持ちで働かれても困ります」
優しい笑顔で、きっぱりと私の馬鹿さ加減を説教してくださった。
その通りだ。見た目の心配やイメージ云々より、まずは派遣を切られないように仕事の方で認められなくてはいけない。
「はしゃいでしまってすいません」
「気を付けてくださいね」
ふう、と重い溜息まで吐かれてしまった。
けれど、少し沈黙した後、小さく笑う。
「社長はね、あんな凶悪な顔でも実は可愛いものが好きなんですよ」