眼鏡をかけるのは、溺愛のサイン。

「……え?」

「可愛いとはしゃぐ君が見たかったんだ」
「……うっ」

この人、きっと女性を褒めないと死んでしまう病気にかかっている。
目の前のアニマルを、可愛いとしか褒める部分はないんだ。


「二人の時は、名前で呼んでいいかな? 紗良」

「ふえっ」

驚いて鼻からソーダを噴出し、鯨みたいな芸を披露しかけた。

危ない危ない。

「で、俺のことは名前で――」

「無理です。社長を名前で呼ぶなんて恐れ多いっ」

「じゃあ、眞井と名字でいい」


不貞腐れたような言い方のくせに、表情は水槽を泳ぐ魚のように爽やかで柔らかい。

「眞井さん」

「そう。慣れてね、紗良」


社長は既に、私の名前を呼ぶのが慣れている。ご機嫌に飲む珈琲にも同じ魚のマシュマロが浮かんでいた。

眞井……さん。

眞井さん。

名前を心の中で呼ぶだけで、胸が熱くなった。
ソーダ―の上で蕩けるマシュマロよりも、私の心は蕩けてしまう。

不思議な、人。
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