眼鏡をかけるのは、溺愛のサイン。
私が、夫となる『眞井 辰巳』に出会ったのは、就職に失敗し派遣秘書として一歩踏み出した日、だった。
それはすっかり桜も散り、友人たちがゴールデンウィークの予定を立て始め、会社でも少しずつ仕事を任されだしたり、研修が終わるころ。
私は遅めのスタートラインに立っていた。
木漏れ日の中、私は急いで慣れないヒールで走っている。
次の電車に乗り込まないと遅刻だ。間に合わなければしばらくまた家事手伝いという、謎の職業を名乗らないといけない。
就職活動がうまくいかず情けないことに派遣会社に登録して、御呼ばれするのを待っていた。
秘書の派遣会社『queenBe』に登録し早一か月。
漸く決まった派遣先は、最近進出してきたネットベンチャー企業を担う広告代理店。ネットでの仕事が増えたために、急遽社長の仕事のカバーやスケジュール管理をしてくれる人を募集してるらしい。
面接に向かったが、心中は穏やかではない。大通りの交差点で事故があったらしい。幸いけが人は出ていないものの、大渋滞でバスより歩いたほうが早い始末。
おまけに電車もレールに石が置いてあったとかなんとかで30分遅れて、乗り換えがうまくいかなかった。