眼鏡をかけるのは、溺愛のサイン。


此処からバスで家に帰ったら最初に間に合わない。
仕方がないので、実家で録画しといてもらって帰ったら見ようかな。

そう思って親にメッセージしようと思ったら、小さく吹き出された。

彼を見ると、横を向いて拳で口を隠して体を震わせている。

「こ、子供っぽいって思ってますね!」
「いや、可愛いなって」

眼鏡をかけているのに、なぜか怖くない。
眼鏡をかけた、仕事中の彼は怖いイメージだったけれど今は少し違う。
違うけど、私のことを子供っぽいと思っているのは確実だ。

眞井さんから見れば私はきっとまだまだ子どもに違いないけど。


「家はどこ? 送るよ」

「いえ、大丈夫です。録画を実家に頼みますんで」

「実家には頼るのに、目の前の会社の社長には頼らないと。信用ないかな?」

「信用はしてますけど……」

社長が胸元から高級車のキーケースを取り出すと、笑いすぎてずれたのか眼鏡のフレームを指先で上げた。


「車で送るから、どんなドラマなのか車中で説明してくれたらいいよ」

ね、と念押しされその笑顔につい目を逸らす。
駄目だ。次元が違いすぎて直視できない。

「で、では願いします。急いで飲みます」

「ああ、じゃあ俺も急いで飲もう」

 最後の一口を同時に飲み干すと、眞井さんはまた『運命だね』と笑う。

社長は私を、派遣の私をどこまで甘やかすのだろう。

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