眼鏡をかけるのは、溺愛のサイン。
この会社とは縁がないという意味か。
それほど付いてない連続に、心が折れそうになった。
改札口をくぐり階段を上がるとき、最初に折れたのは心ではなくヒールだった。
私の今の心境を表すかのごとくポッキリ折れている。
機能性よりも小さな身長をカバーするために見栄えを重視して買ったハイヒール。
「……どうしよう」
階段を上り、折れた靴を持って途方にくれる。
縁がないにもほどがある。
次々起こるアクシデントにパニックになり、順応できない自分が恥ずかしくて涙が出そうだった。
仕方ない。もう一つもヒールを折って穿いて、下りたら靴屋に向かおう。
その場合、完全に遅刻だが――。
「ふ」
不幸のどん底に落とされていた私に、追い込みをかけるような嘲笑う声に振りかえる。
「……ふ」
私の情けない顔を見てまた笑った声の主は、首をぐんと上げないと顔が見えない。
見上げたら、190センチはありそうな男が私を見下ろして口の端を上げて小馬鹿にするように笑っていた。
「そんな安い靴を履くからだ」