眼鏡をかけるのは、溺愛のサイン。

「怖がるのを、ですよ。怖くて目線逸らすのが勿体ないほど、格好いい顔してるのに、という意味です」

珈琲を運びながらそう笑うと、眞井さんの顔が面白いほど歪んでいた。

こんな顔もできるんだ。百面相できそう。

「社長?」
「格好いいって、君に言われるのは悪くないね。紗良」

「しゃ、社長!? な、なまえ」

驚いて珈琲をこぼしそうになって手で掴む。
すると同時に手を伸ばした眞井さんと手が触れてしまった。

「あの、あの、仕事中ですので呼ぶなら下の名前ではなく名字で」
「仕事の後なら下の名前を呼んでいいと?」

 誘導尋問に引っかかった気がするけど、私の頬は、今手で掴んだ珈琲より熱いに違いない。

「……だ、めです」

「今俺は、――まだ休憩時間なんだけど、駄目か?」

ニヤニヤと意地悪そうに笑う。それがなんだか、イケメンは意地悪な顔もイケメンで反則だなって思ってしまう。

「自分で考えてください。面接の方の書類でも目を通してください」
「朝からもう何十回見たかな。君にははぐらかされるし、休憩が休憩じゃない」
「それは知りません」

 はあ、とわざとらしくため息を吐いた後、仕方なさそうに書類をチェックし出す。

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