眼鏡をかけるのは、溺愛のサイン。
目の前に、紙袋を差し出された。
「可愛いと思っていたら取引先がくれた。――そこに偶然、それを履いたら可愛いだろう生き物が目の前に現れた」
生き物?
履く?
おずおずと紙袋を受け取ると人気女子ブランドの名前が金箔で印刷されている。
その時、彼はスーツのポケットから眼鏡を取り出し、かける。
極上に甘く笑いながら、跪いてヒールが折れたハイヒールを触る。
「脱がせていい?」
「あの、その」
初対面で人の靴に触るなんて――と思いつつも嫌じゃないのはこの甘ったるい笑顔のせいだ。
人の警戒心を一瞬ではぎ取ってくる。
「自分で脱ぎます」
「そう、じゃあそっちの紙袋取って」
喜んでお返しして、片方ヒールが残っていた方の靴を手に取り、折ろうとしたと同時だった。
包み紙から取り出したヒールを私に向けて差し出してきた。
「何をしてる?」
「ヒールを折ろうと……」
一瞬、真顔になった。
やばい、また馬鹿にされてしまう。そう覚悟したのに、その人はさっきの皮肉な笑顔とは裏腹に思いっきり笑った。
「その可愛い手では折れないだろう。諦めろ」