眼鏡をかけるのは、溺愛のサイン。
「いいえ。片野さんも辰巳さんも、崎田さんは本人にきっぱり言う人だからと事前に教えてくれていたので。それにそんなことしそうに見えなかったので」
「ふうん。……疑うのを知らないのねえ。だから心配で守りたくなっちゃうのかしら」
最後の方は、自分に言い聞かせるように言っていたので、返事をしようか悩んだものの何を言うのが正解か分からず誤魔化す。
「なんか、ふわんふわんしててイラっとするんだけど、社長が好きになるのが分かる」
「ふ、ふわんふわんって」
「もうさ、影口叩くやつなんてそうそういないだろうけど、もし居たら私に言いな。本人に倍返ししてあげるから」
「ひー。大丈夫ですっ」
崎田さんならやりかねないので、全力で止めておいた。
「これからも努力していくので、言われないように頑張ります!」
仕事ができないとか、動作がもたついてるとか、本当のことだし。
もっとできるようにならないといけないし。
「そういえば、今日は社長と一緒じゃないのね」
「今日は片野さんと取引先の会社に挨拶に行ってそのまま帰宅するらしくて」
私がそういうと、崎田さんは眼を真ん丸にした。
「それ、大丈夫? 社長は定時と同時に帰っていったよ」
「え?」
「早く帰って。たぶん家にいるんじゃない? 明日が入籍日って言ってたけど勘違いしてるんじゃないの?」
「いえ、そんなはずないと思います。けどすいません。お先に失礼します」
「はーい。頑張りなー」
崎田さんの言葉に、崎田さんを残しホームへ走った。
そして電車に飛び乗ったのだった。