眼鏡をかけるのは、溺愛のサイン。
「は、はい。そうです。やはり有名な会社だからご存じで?」
「有名、と言われて悪い気はしないな。でも面白い」
強引に腕を掴まれ、似合っていなかったハイヒールが地面に転がる。
「これは運命みたいじゃなく、運命かもしれない」
「はい?」
彼がスーツの内ポケットから銀色の名刺入れを取り出すと、一枚私に手渡した。
そこには、私が今日面接に行くはずの会社の名前と代表取締役社長『眞井 辰巳』と書かれている。
「な。運命だろ」
「嘘……うそぉ」
名刺と顔を交互に見るけど、信じられない。
社長って肩書にしては若すぎる。
「えっと失礼ながら、雇われ社長とか?」
私の間抜けな発言にも、怒りもせずに笑っている。
「大学の時に企業してもう10年。29歳にして社長を名乗ってます。これで満足かな」
わざわざご丁寧に免許証を見せてくださったが、眼鏡をしていない凶悪な顔で思わず固まる。
何に驚いていいのか分からないほど驚きの連日だ。
「わ、分かりました。それであの社長」
「はい」
「このままでは社長も遅刻だったのでは?」