わたしが小説を書くように
 先生のお宅は、ちょっと古びた、でも立地は悪くないマンションの一室だった。

 表札を確認してこわごわインターホンを押すと、
「はーい! 開いてまーす!」という声と同時に、なにかをひっくり返したような音がした。

 開けて玄関で靴を脱ぎ、女性の気配がしないことを確認して中に入る。


「先生!」

 びっくりした。

 床に九の字になっている先生を見たからだ。


 これは大変だ。

 応急処置をして、救急病院に……と考えていたわたしに、先生は、

「ここにいて、ほしいんだ」

 腕を取り、必死の形相でわたしを止めた。
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