わたしが小説を書くように
 趣味は整理整頓、というだけあって、先生のお宅は片付いていた。

 少し本が箱から出されていたくらいで、男性の一人暮らしとは思えない。


 わたしは洗面室に入り、歯ブラシが二本以上置いていないか確かめた。

 一本だけしかさしていない。

 あとはうがい薬やら、オーデコロンやら、整髪剤やら、すべて先生のものらしかった。


 食材の充実ぶりにも目を見張った。

 冷蔵庫のなかもきっちりとまとめられ、保存食は日づけのラベルまで手製で貼ってある。

 細かいひととは知っていたけれど、ここまでとは……。


 先生の好みの味つけはエッセイを読んでだいたい知っていたので、夕食をつくることにする。

 ちょうど、夕日がさしてきたころだったし。
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