わたしが小説を書くように
 わたしは、返事の代りに沈黙を返した。

「あなた、ずっと畑中さんのファンだったでしょう」

「どうしてわかるの」

「あなたの本棚を見ていればわかるわよ」
 
 バレバレだった。


「まあ、よかったわね」

 母はため息をつきながらいった。

「大学を選んだときから、そういう理由だったのかなって思っていたから……。
 念願がかなったってことでしょう」

 わたしは、ただ黙っている。

「ただ、その経験をプラスに変えなさいね。
 あなたはこれまで苦労してきたんだから、男のひとでまでつらい思いをしてほしくないわ」

 口に出さずに、もう遅いかもしれない、と思った。
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