わたしが小説を書くように
 先生は、こちらを向かないで歩く。

「……父が、亡くなりました」

 淡々と告げると、意外な答えが返ってきた。

「ああ、知ってる」

「え、なぜご存じなんですか?」

「ちょっと、小耳にはさんだ」

 変だな、と思う。

 友達にもあまり詳しくは話していないのに。
 
「それより、学校、やめたのか」

 驚いたよ、と先生は言う。

「しかも、もっとレベルが高い大学に入っていやがる。
 まったく、あなたにはびっくりさせられっぱなしだよ」

「何のご相談もなく、すみません」

 わたしが頭を下げると、先生は手をひらひらとさせて、こちらを振り返った。

「受賞、おめでとう」

 急に立ち止まった先生は、優しい目をしていた。

「あれは、先生のご尽力があったからです」

 正直に感じていることを言った。

「先生の言うとおりに改良した文章で、賞は先生がお取りになったようなものです」

「そんなことはないさ。あなたもわかっているはずだ」

 少し、沈黙して、目を泳がせる先生。


 次に告げられた言葉を、わたしは忘れることができない。

 
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