わたしが小説を書くように
 足元が地震みたいにぐらつくのを感じて、わたしは息を止めた。

 これは、なに?

 先生なりの、プロポーズなの?


 嬉しくないわけではない。

 でも、なにかが激しく、わたしを引き留める。


 不意に、このこだわりを捨ててしまいたいと思った。

 このわたしの、足かせになっている、父を恋しく思い続ける心。


 もう、父はいない。

 どこを探しても、いないのだ。

 
 それでも……。


「……今は」

 わたしは、重くなった唇をひらいた。
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