佐藤さんの憂鬱。
投げやりの言葉を口から放り投げる。

「んー、普段なら声かけないんだけど、知り合いに似ていたから」
「そう…、なんでもいいけど、ほっといてくれないかしら。今傷心中なの」


早くどこかに行ってくれ、そう強く願いながら。

すると、男はさしていた傘を私に傾けた。

「…なんなの?ほっといてってば」

初めてあった人にこんなにも強い言い方をしてもいいのだろうか。
でもこの人の声、聞き覚えがある気がした。

「…思い出してもらえないほど嫌われちゃった…?」

切なげな声に初めて男の顔を見た。
しかし、どうしても記憶と結びつかない。
目を凝らしてよくよく見てみると、何か頭によぎった。

「…かよちゃん」

ぼそっと呟いたそのあだなと声が結びついた。

「っ木村くん?!」

がばっと立ち上がった時、ぐらりと視界が歪んだ。

「かよちゃん?!」

目の前が真っ白になって真っ黒になって、木村くんの呼び声も聞こえなくなった。







もう2度と…あなたになんて会いたくなかった。
< 14 / 26 >

この作品をシェア

pagetop