ハッピーエンドはお呼びじゃない
出刃包丁ではもの足りなくなって、段々持つ武器を進化させて行き、最終的にちょっと此処では言えないようなヤバい銃にまでなった。

 いや、まさかデザートイーグルとかF-2000とかAR-15とかにまで発展するとは思わなかったんだ。まあ、M360J‘SAKURA’くらいで終わるかなとか思ってたんだ。

 私は自分でも思っている以上にこの家の人間が嫌いらしい。あんなに破壊力の強い武器にまでエスカレートするなんて。

 私が、私自身の潜在意識に恐れ慄いている間に台所に着いた。憂鬱さ、気だるさはあるが他は至って健康体である為、逃げれない。
 
「すみません。今、お手伝いします」
 
 形ばかりの謝罪と形ばかりの気遣い。ばればれなんだろうけど、別にどうだっていい。一々お伺い立てるほど、叔母たちの位は私の中では高くない。それに叔母たちだって形ばかりのの付き合いしかしないのだから、似たもの同士だ。

 雑な返事を確認して、台所に入る。さて、何をすればいいのだろう。焦げ過ぎてもはや何なのかわからない野菜炒めでも作ろうか? それとも味付けを間違えて、むせるほど辛くなった三つ葉のおひたし? デザートには飛び上がるほど酸っぱいチーズケーキでどうかな?

 言っておくが、私の家庭科の成績は5だ。しかし、この家の人間に対してのみ1になる。
 
「はい、これ」

 叔母に手渡されたのは林檎。どうやら剥けということらしい。いいだろう。皮の方が厚くなるような剥き方してやる。

 しゃりしゃりと林檎を皮の方が厚くなるよう剥きながら、この林檎はどこ産なのだろうと考えた。自分の県のやつなら食べればわかる。しかし、長野とかだとわからないだろう。生まれてこの方、林檎は自分の県のものしか食べたことがないのだから。
 
『まだあげ初めし前髪の
林檎のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛の
花ある君と思ひけり』
 
なんて詩もあったな。あの詩の林檎はどこ産だったんだろう。気に入ったもの以外はほぼ小説しか読まないから詩のことなんてわからない。

 ふと物思いを中断し、手元を見ると、皮の暑さが2センチくらいある、ほぼ芯しか残っていない林檎があった。

 ──どうせ食べるのは私じゃないからいいか。食べるのは本家の人間だ。私は私用にうさちゃんリンゴ作ろう。

 皿に塩水を張って、切った無骨な林檎を並べる。文句を言われても知るものか、そんなに林檎を沢山食いたいなら丸齧りすればいいんだ。

 私はうさちゃんリンゴの為の林檎を手に取った。

 タンタンタンと林檎を六分割して、皮剥いて、ウサギにして、はい、一つ完成。あと5個。
 
「あら、月子ちゃん、林檎の皮剥き下手ね」
「すみません」
 
 林檎を取りに来た叔母にそう言われた。うさちゃんリンゴは見えなかったらしい。林檎を取りに来た、ということはそろそろ夕食か。私は台所で一人寂しく食べるんだろうけど。

 私が大広間で夕食を食べられるのは近所の人も集まる、年越しの時だけだ。まあ、私だって今日の夕食みたいな高級刺身を食べたくないわけではないけれど、本家の人間から貰うのは癪だから、将来、稼いで自分で食べるのだと決めている。それまでは、高級刺身よ、さようなら。私の胃に貴方が入るその日まで。

 高級刺身のことを考えながらも、私はうさちゃんリンゴを全て完成させた。
 
 
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