午前0時、夜空の下で。 ―Short Story―
「では、もし!もし私が久遠の森に行きましたら、お話を聞かせていただけますか?」

妙にアッシュを気に入ってしまった様子のジュリアに、彼は小さく苦笑した。

「いいだろう。姫が一人で久遠の森にまで来ることができたなら、我は歓迎する」


――貴族の姫として育てられ、かの有名なノースヴァン家の血をひくならば、久遠の森どころか屋敷を抜け出すことすらできまい。


そんな思いで頷いたアッシュは、後に深くその言葉を悔いることになる。

走り去る灰狼の背を見届け、ジュリアは満足げに微笑んだ。

「やっと見つけたわ、誉れの雫に相応しい者を。……カザリナに伝えなくては」

月明かりが照らす回廊を、ジュリアは弾むような足取りで歩き始めたのだった。







それからしばらくして、ノースヴァン家長姫のジュリアが忽然と姿を消した。

久遠の森で灰狼が己の目を疑うのは、もうすぐのこと。





end.
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