午前0時、夜空の下で。 ―Short Story―
夜会の晩、妃月に抱かれているように装えとクロスリードから命じられたのは、前回訪れた時のことだ。

経験がないと不安がるカザリナに、では手本をとクロスリードは言って――……



「あなたには申し訳ないと思っています」

かけられた言葉にハッとして、カザリナはクロスリードを見上げた。

普段から厳しく己を律している彼が、疲れた表情で長椅子に腰掛ける姿は、めったにお目にかかれるものではない。

深い溜息を落として、クロスリードは呻いた。

「決して、淑女にさせていい芝居ではない……」

「父も母も兄も了承済みですわ」

下手をすればカザリナの一生を、そしてアクセス家の名誉をも左右する芝居のため、事前にアクセス家当主に判断を仰いでいる。
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