午前0時、夜空の下で。 ―Short Story―
娘の貞操にかかわる芝居を、当主は重々しく頷くことで了承した。

この芝居で、どれだけの者を騙せるだろうか。

これまで魔王の寵姫と噂され、実際に褥をともにしたことはあっても、妃月は手を出そうとしなかった。

魔王が相手にするのは、“そのために用意された女”だけだ。

名門アクセス家の姫に悪戯に手を出すような、愚かな王ではない。

カザリナは一度だけ、“そのために用意された女”を目にしたことがある。

魔界一と名高い娼館――黎明館の蝶だ。

見目麗しい女ではない。

だがバランスよく肉がついた体型と、愛嬌のある笑顔は魅力的だった。

――アシャンと呼ばれる、黎明館の蝶たちをまとめ上げるあの女は、陛下と……。

カザリナは蝶の姿を認めた瞬間、自分が魔王の相手にはされないことを悟った。
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