午前0時、夜空の下で。 ―Short Story―
彼女は貴族なのだ。

手を出せば、相応の待遇が必要となる女。

カザリナは時折、貴族でなければ魔王と褥を共にすることができたのだろうかと思うことがあった。

だがそれは否だ。

黎明館の女でなければ、魔王は近づくことすら許されない相手である。

カザリナは貴族だからこそ、城に上がり、見つめることができるのだ。

そして家族のようにカザリナを可愛がってくれるクロスリードは、魔王に思慕の念を抱く彼女を呼び寄せ、少しでも言葉を交わせるようにと気遣ってくれた。

「声を出すとなると、そういった行為を勘繰られてもおかしくない。たとえ相手が陛下であっても、あなたが嫁ぐ際に嫌な思いをするかも――」

憂いの表情を見せるクロスリードに、カザリナは大きく首を振った。
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