午前0時、夜空の下で。 ―Short Story―
そんなカザリナの想いを知らぬクロスリードは、耳を塞いだカザリナの肩を抱き寄せる。

「陛下を翻弄する人間の名など、聞きたくはありませんね。迂闊でした」

――そうではないの。あなたに呼んでほしくないだけ。

心の中ではいくらでも言える睦言を、カザリナは心中に押し込めた。

ぐるぐると不安が渦巻く。

まるで死が近づいているかのように、クロスリードの気配が感じられない。

抱き締められた状態に甘えて、カザリナは逞しい背中にしがみついた。

――どうしてかしら。この美しいひとが、今にも消えてしまいそうで……怖い。

ここにいることを確かめようと、腕に力を込めるカザリナに、クロスリードは口を閉ざす。

波打つ金の髪をゆっくりと撫でて、クロスリードは女の震える頭に口づけた。
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