午前0時、夜空の下で。 ―Short Story―
妃月の言葉を耳にした瞬間、男は慌てて立ち上がり、もつれる足を必死に動かして走り去った。



「来てくれてありがとうございます。
でも……どうしてわかったんですか?
執務中ですよね?」

心の言葉に、妃月はくつりと妖しい笑みを浮かべた。

「血が香ったからな」

予想外の一言に、心は目を丸くする。

妃月の指が、そっと心の口唇をなぞった。

そのまま指は、口の中に滑り込んでくる。

舌の上を指が這う。

ねっとりとした動きとともに感じたのは――……鉄分の味。

無意識に、唇を噛み締めていたらしい。

強く噛みすぎて、血がにじんでしまったのだろう。

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