眠り姫の憂鬱。


「んじゃ、これからはそいつがお前のヒーローだな」


大好きなはずの笑顔を見ただけなのにやたらと胸が苦しい。


「なんでそんなこと言うの!」


叫ばずにいられなかった。

だって私のヒーローは楓だけだって言うのに。


「私のヒーローは楓だって言ってるじゃん!私が好きなのは楓だもん!そんなふうに勝手に決めつけられたくない」


なんにも伝わってないんじゃないかって。

私の想いはこれっぽっちも楓に届いてないんじゃないかって。

不安が濁流のように押し寄せてくる。

こんなに感情が溢れだしてくるのは初めてのことで自分でも戸惑う。


「ご、ごめん」

「助けてほしいわけじゃないの。助けてくれなくてもいいの。ただ私のヒーローは楓だから」


私の中だけはヒーローのままにさせて。

ぎゅっとキツく目を閉じていると、頭をひとつポンッと叩かれたのでゆっくりと目を開いた。


「わかったよ、ごめんな」


眉をハの字にさせて笑う楓を見たら、また胸が苦しくなった。



< 120 / 236 >

この作品をシェア

pagetop