眠り姫の憂鬱。


「あれ、雅ちゃん?」


背後から話しかけられビクッと肩が上がる。

振り返るとそこにいたのは私の担当医の先生だった。


「どうしたの?なんかあったの?」

「あ、いえ、私じゃなくて、知り合いが…、」

「そっか」


先生は優しく微笑んだ。

あとから、私に何かあったらまずは先生に連絡が行くことに気付いたけれど、その時はきっとあまり頭が回っていなかったんだろう。


「先生…、」

「何かな?」

「先生、私ね、私、ホントにホントに好きな人ができたの」

「そうかい」

「今までと全然違うの。笑顔を見るだけで嬉しくなって、隣にいたい。その人を助けたいって思う」

「……、」

「先生、私どうしたらいいのかなぁ。きっとどんな選択をしたって後悔する。どうすればいいんだろう」


さっきの光景を思い出す。

苦しそうな七海ちゃん。焦った楓の顔。不安げな、楓の顔。


人は『しない後悔よりした後悔』って言うけれど、私がすることで楓を苦しめてしまうかもしれない。


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