眠り姫の憂鬱。


振り返ると笑顔の駆琉くんが手を振っていた。


「駆琉くん、こんにちは!駆琉くんも飲み物買いに来たの?」

「あー、まあね」


中途半端な応えに私は首を傾げた。

駆琉くんはそんな私を見て微笑して、"それより"と言葉を続ける。


「マラソン大会には参加するの?」


駆琉くんまでがそのネタを持ち出してくるなんて、余程生徒の中で話題になっているんだろう。


「実は迷ってて…、」

「サボるの?」

「うーん」

「えー、一緒に走ろうよ」


私も少しくらいなら走れるかな。

もう十何年も走ってないけれど。

大丈夫、もしヤバくなったら抜ければいいんだもの。


「わかった!真依も一緒だけどいい?」

「もちろん!じゃあ明日!」


駆琉くんは上機嫌で去っていった。

私のミルクティーを持つ手に力が入る。


手のひらには覚悟した気持ちがこもっていた。


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