眠り姫の憂鬱。
普通水族館で女性に声かける人いないでしょ、と動けない体と反対に冷静な脳みそで考える。
当たり前だけど、私は念願叶って楓とデートしているのでこんな男にはついていくはずがない。
だけど、面倒くさいことに男はしつこく私を誘ってくる。
どうしようかと困り果てていたその時。
「そいつに何か用ですか?」
背後から聞こえてきた楓の声に安堵した。
私の前にいた男は狼狽えた様子で何も言葉を発さず消えていった。
「お前、人に絡まれやすい体質かなんかなの?」
楓は怪訝そうに私を見つめながら向かいの椅子に座る。
「楓、ありがとう」
お礼を言うと、楓は優しく微笑んだ。
そんな風に笑ってくれるんだ。
私は、彼を好きになれてどれだけ幸運なんだろう、ってこの瞬間が幸せすぎて泣きそうになった。