眠り姫の憂鬱。


普通水族館で女性に声かける人いないでしょ、と動けない体と反対に冷静な脳みそで考える。

当たり前だけど、私は念願叶って楓とデートしているのでこんな男にはついていくはずがない。

だけど、面倒くさいことに男はしつこく私を誘ってくる。

どうしようかと困り果てていたその時。


「そいつに何か用ですか?」


背後から聞こえてきた楓の声に安堵した。

私の前にいた男は狼狽えた様子で何も言葉を発さず消えていった。


「お前、人に絡まれやすい体質かなんかなの?」


楓は怪訝そうに私を見つめながら向かいの椅子に座る。


「楓、ありがとう」


お礼を言うと、楓は優しく微笑んだ。

そんな風に笑ってくれるんだ。

私は、彼を好きになれてどれだけ幸運なんだろう、ってこの瞬間が幸せすぎて泣きそうになった。

< 191 / 236 >

この作品をシェア

pagetop