眠り姫の憂鬱。


窓の外を見ると懐かしい記憶が思い出される。

あれは私がまだ小さい頃。

病室が近かった女の人とよくお話をしていた。


「病気って辛いよね。私だけじゃなくて周りの人も傷つけるもの」

「…どういうこと?」


首を傾げた私に女の人は微笑む。


「私には旦那さんがいるんだけどね、いつも明るくて私を笑顔にしてくれるの」

「やさしいね!」

「でしょ?…だけどね、旦那さんにすごく心配をかけていて、すごく傷つけているのを私はわかっているんだ」

「……、」

「そんな旦那さんに笑顔でいてもらうためにずっと病気と闘ってきた」


その時の女の人の切なげな表情を今でも鮮明に覚えている。


「雅ちゃんもね、いつか選択しなきゃ行けない時が来るかもしれないのよ。病気と闘う時に隣にいてもらう人を」


きょとんとする私の頭を優しく撫でたその女性は花が咲いたような笑顔を見せる。

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