眠り姫の憂鬱。
昼休み、私は楓を呼んでいつぶりかの音楽室を訪れた。
しばらく人が入っていなかったからか埃っぽい空気が私たちを包む。
ピアノもうっすらと埃をかぶっていた。
楓は最近、ピアノを弾いていなかったのだろうか。
「話ってなんだよ。わざわざこんなところまで来て」
「うん、時間もらっちゃってごめんね」
窓側に立つ楓の顔は逆光でよく見えない。
私は小さく息を吸って早まる鼓動を宥めた。
「私、楓を追いかけるのやめるね」
「……、」
「今まで付きまとってごめんね。もうしないからね」
目を凝らしてみてもやっぱり顔がよく見えない。けどそのシルエットだけでも目に焼き付けようと瞬きもしたくない気持ちだった。
「楓さ、前に私の"楓への気持ち"は恋愛感情じゃないって言ったよね」
「……ああ」
「それが正しかったみたい」
私は上手に嘘をつけているんだろうか。
楓にバレていないだろうか。
だって楓への気持ちが間違っていたなんて、そんなことあるはずがないんだもん。