眠り姫の憂鬱。
楓は黙っていた。表情も読み取ることができない私は楓が何を考えているのか全くわからなかった。
「私ね、他に好きな人ができたの」
ずっと考えていた。楓にどうやって何と言って別れを告げるのか。
何も言わずに去ることもできた。でもそれができなかったのは、残された人の思いを少し知ってしまったから。
楓とっての私が風のように過ぎ去ってなくなる存在でなくてはならない。
そうでなければもし私が消えてしまった時、一緒に過ごした数ヶ月の思い出が足枷となってしまうかもしれない。
できれば楽しい思い出のまま、あんなこともあったなくらいのものにしたかった。
そうやって入院中ずっと考えて、決してこの方法が正解ではないだろうけれど、私は好きな人ができたと嘘をつくことにした。
以前まで、楓を好きになるまでは、好きな人がコロコロ変わっていた私だから疑われることはないだろうと考えたのだ。