眠り姫の憂鬱。
「だからね、」
「…誰?」
「え?」
「次の好きな人は誰だって聞いてる」
「えっと、」
まさかそんなこと聞かれると思っていなかったから焦る。
好きな人は今だって楓。次の好きな人の設定まで考えていなかった。
どうしよう、どうしよう。架空の人物でも良いのだけれどこのまま追及されれば必ずボロが出る。
その時私は男子生徒のひとりが思い浮かんだ。
「駆琉くん!吉川駆琉くん!今はその人が好きなの」
「吉川…」
無意識に逸らしていた目線を楓に戻すと、太陽が雲に隠れたのかよく顔が見えた。まっすぐに私を見つめる彼の表情が少し怖かった。
「そう!文化祭で楓もしゃべったでしょ?」
「……、」
「付き合うことになるかもしれないんだ。…だからね、楓のスマホ貸してくれる?」
「は?」
「私の連絡先、消してほしいの」
連絡はお互いにできない方がきっといい。
私は楓が出したスマホを受け取りメッセージアプリから私の情報を消した。そして自分のメッセージアプリからも。