眠り姫の憂鬱。
今までしたトークが全て消えて心がちぎれそうなくらい寂しくなる。
「今までありがとう」
最後にはしたくないけれど、最後かもしれない楓の記憶の中の私の顔が笑顔であったらいいなと思ったから笑顔を作った。
「こちらこそ」
そう言って楓が私に笑顔を向けてきたから、私は楓の過去になれるんだって安心して少し泣きそうになった。
「私、ここで駆琉くんと待ち合わせてるから楓は先に戻って」
もちろん駆琉くんとそんな約束はしていないのだけど、今は少し最後の余韻に浸っていたくてここから動きたくなくて、楓が去っていくのをボーッと眺めた。
最後に笑ってくれた顔が頭から離れない。
楓のピアノに向かう真剣な顔が好き。妹に向けたあの優しい顔が好き。時々見せるイタズラっ子なような顔が好き。怒った顔が好き。
だけどやっぱり、笑顔が一番好き。
埃のかぶったピアノを撫でる。
もっと彼のピアノの音色も聞きたかったな。