眠り姫の憂鬱。
どうしよう。
逃げなきゃいけないのに足が動かない。やっとの思いで背を向けてその場から離れようと試みる。
病院でばったり出くわしてしまうことも予測できたはずなのになんで私はそこに考えが至らなかったのだろう。
せっかく楓から距離をとって、前に進む決心をしたのに。
それなのに、
「……雅?」
ああ、なんで後ろ姿でわかっちゃうかな。
「雅だよな?」
私は精一杯の笑顔で振り返った。
「あ、あれ?偶然だね!わ、私、お見舞いに来てて!」
「お見舞い?その格好で?」
渾身の演技をした成果は乏しく、私の嘘はすぐに見破られてしまう。
今の私は花柄のパジャマにパーカー、足元はスリッパだった。
「嘘!あ、あのね!風邪をこじらせて肺炎になっちゃって!もう、だいぶ良くなったんだけど…、」
「…ふうん」
その嘘を楓は信じたのか、それ以上聞いてくることは無かった。