眠り姫の憂鬱。


それを知った人がどう思うのか、それを考えると怖い。

知らぬが仏という言葉があるのなら、教えない方がいいと思った。


「教える必要がないと思ったからかな」

「お兄ちゃんにも?」

「うん」


楓には特に言えない。

大切だから余計に。


「雅ってヘラヘラしててすぐ泣きそうな感じするのに全然泣かないんだね」


七海ちゃんはお見舞いに持ってきてくれたプリンの中のひとつを食べ始める。

私は視線を落として冷えた自分の手を眺めた。


「…七海ちゃん。泣いていいタイミングっていつかな?」

「は?」


私は泣かないと心に決めてから泣かなくなった。泣けなくなっていた。

どんなに泣きたくなっても涙を流すことはしない。

一度泣けば全て感情を曝け出してしまう気がして泣くことを恐れた。

自分を守るルールのようなものだった。


「タイミングなんて決まってないでしょ。泣きたい時に泣くもんじゃん。溜め込んだらきっと体にも悪いよ」


小さな声で、でも確実に訴えてくる。

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