眠り姫の憂鬱。


「おい、俺が音楽室でピアノ弾いてるって言うんじゃねえぞ?」

「え、なんで?」

「他の人に来られたら困るからだよ!」


ものすごい勢い剣幕で言うから、三郷くんはファンが押し寄せてくるのが嫌なのかと思ったけど、それは違うと瞬時にわかった。

だって三郷くん、自分がモテるって思ってないもんね。

だとすると、単純にピアノが弾けることを知られたくないんだな。


かっこいいのに。

ギャップ萌えってやつ?

まあ、かっこいい三郷くんは私だけ知ってたらいいけど。


「じゃあ三郷くんと私の秘密だねぇ」


三郷くんとの距離をぐっと近づけると三郷くんはぎょっとした顔で私を見る。


「だいたい、ここにいるって誰に聞いたんだよ」

「えーっと、三郷くんの友だちくんだよ」

「……あいつかよ」


三郷くんは大きな大きな溜め息を吐いた。



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