眠り姫の憂鬱。


「ねえ、三郷くん。あれ弾いてよ」

「…あれってなんだよ」

「私が初めてここに来たときに弾いてた曲!私もピアノ習ってたことあるんだけど、習ったことも聞いたこともないんだよね」


単調に思えるのに、聞けば聞くほど繊細で奥が深くて、優しいぬくもりのような曲。

一度しか聞いたことないけど、私はあの曲が好き。


「そりゃ、ばあちゃんが作った曲だからな」

「えっ!!おばあちゃん作曲家なの?」


身を乗り出して尋ねると、三郷くんは"落ち着け"と言わんばかりに私の肩をグイグイ押して、私を元の位置に戻した。

仕方がないから私はピアノの横にぴったりとくっつけた椅子に座り直した。


「作曲家とか、そんなすげえ人じゃない。ばあちゃんはピアノの先生やってんだよ。作曲は趣味」


しゅ、趣味って…レベル高すぎじゃないですか、三郷くんのおばあちゃん。


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