眠り姫の憂鬱。
「楓って呼んだらダメ?」
ダメ元でもう一度頼んでみると、
「…勝手にすれば?」
了承してくれる彼はやっぱり優しい。
「楓、楓、楓、楓!」
「うるせえな、聞こえてるよ!」
迷惑そうに言うけど赤面してるところとか、照れてるのを隠しきれてないところがすごく可愛い。
「ふふ、かーえで!」
「なんだよ」
「好きだよ!忘れちゃダメだからね!」
私はまだしゃがんでいる楓を置いて、教室に戻った。
本当はまだ話していたかったけど、もうすぐ次の授業が始まるし、今は離れないと離れたくなくなっちゃうから。
今まで恋人ができたら嬉しかったし、デートできたら楽しかったけど。
付き合ってもないのに、デートもしてくれないのに、こんなに嬉しくて楽しい気持ちになれるのは初めてだ。
「えへへ」
私はニヤけた顔を戻してから自分の席に腰を下ろした。