眠り姫の憂鬱。


「楓って呼んだらダメ?」


ダメ元でもう一度頼んでみると、


「…勝手にすれば?」


了承してくれる彼はやっぱり優しい。


「楓、楓、楓、楓!」

「うるせえな、聞こえてるよ!」


迷惑そうに言うけど赤面してるところとか、照れてるのを隠しきれてないところがすごく可愛い。


「ふふ、かーえで!」

「なんだよ」

「好きだよ!忘れちゃダメだからね!」


私はまだしゃがんでいる楓を置いて、教室に戻った。

本当はまだ話していたかったけど、もうすぐ次の授業が始まるし、今は離れないと離れたくなくなっちゃうから。


今まで恋人ができたら嬉しかったし、デートできたら楽しかったけど。

付き合ってもないのに、デートもしてくれないのに、こんなに嬉しくて楽しい気持ちになれるのは初めてだ。


「えへへ」


私はニヤけた顔を戻してから自分の席に腰を下ろした。



< 52 / 236 >

この作品をシェア

pagetop