眠り姫の憂鬱。
◇泣いても笑っても◇
いつだってお母さんの卵焼きは美味しい。
葉月家の卵焼きは断然甘い派で、絶妙な砂糖の量の優しい味が、私は大好きだ。
だけど今日の卵焼きは違う。
味がしない、なんて言ったら変だけど、でも本当に味を感じられない。
卵焼きだけじゃない。
タコさんウインナーもハンバーグもポテトサラダも、全部ぼんやりとした味。
「おーい、雅?」
「なあに、真依」
「なんかあったの?ぼーっとしてるけど」
「なんでもないよ?」
真依の声にはっとして笑顔を作る。
楓、怒ってるかな。
早く謝らないと。
けど、会うのは怖い。
それとも本当のことを言う?
いいや、それは違う。
家族以外に教えることはしないと決めている。