泣きながら笑え、笑いながら泣け


初めての死だった。近所の末期癌のおじさんとか、あったことも無い親戚のじいちゃんとか、小学校のときのクラスの違う子のお母さんとか、ありとあらゆる死を見てきたけど、間近な死は初めてだった。
泣くに泣けなかった。矢野爽太が死んでから葬儀も火葬も終わるまでずっと、矢野爽太に言いたかったことは一つ。
「爽ちゃん馬鹿やん」
もし、こうやって声をかけたなら、矢野爽太は盛大に笑っただろう。
「馬鹿ってなんなん、柊のが馬鹿っちゃ!習わんやったか?馬鹿って言う方が馬鹿なんぞ」
容易く想像できる。あの時、俺より身長は15センチ高かった。見下ろされるのが悔しかった。豪快に笑って、たぶん馬鹿にするように俺の頭を撫でるんだ。もう中学生ってことをわかってないのか、俺と翔太は、矢野爽太にとって、永遠に小学生くらいの男の子の感覚だったんだと思う。


県大会優勝の記念カップ、使い古したグローブと爽太がファンだったホークスの帽子、ユニホーム。本棚には野球マンガがずらりと並んでいて、たまに活字があるとおもったら野球のルールブック。野球だらけのその自室で彼は首を吊っていた。
最初に見つけたのは、翔太だった。

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