スノーフレークス
「私たちが駅前の予備校に行っている間に、日向さんは買い物と料理をしているんだねえ」
 谷口さんがしみじみ言う。この学校の生徒たちは学校が終わると町中にある大きな予備校に直行して、「難関大学受験コース」だの「医薬大受験コース」だのを受講している。
「でも、お皿洗いは父さんがやってくれるし、母さんだって調子のいい時はできるだけ家のことをやってくれるよ」
「そうは言っても夕飯が終わったら疲れるんじゃない? うちの母親だって仕事の後に夕飯作ってるから、学校の後の一仕事が大変なのはわかるよ」
 高瀬さんが言う。彼女の母親はどこかの高校で教師をしているらしい。
「まあね。正直、毎日の予習と復習がしんどいよ」
 食事を終えた後は、この学校が課す膨大な量の宿題と格闘しなければならない。分不相応のハイレベルな高校に転校してしまった私に、それは大きな重圧としてのしかかっている。
「わからないところがあったら何でもきいてよね。私たちで助けてあげられることがあったら、何でも協力するから」
 高瀬さんが言う。その言葉が胸にしみる。
「ありがとう。宿題でわからないことがあったら、携帯で質問させてもらうね」

 四人組が次々と親切な言葉をかけてくれている時、斜め前方に数人の男子のグループが座っているのが見えた。
 その中の一人に私の目は留まった。初日に父さんと一緒に学校へ行く途中で、私たちを追い越していった男子生徒だ。父さんの言ったとおり彼も古城の生徒だったのだ。今日、初めてしっかり顔を見たけど、彼ははっとするほど涼しげな目をしている。
「あれは二年の理系クラスの男子よ」
 私の視線の向かう先に気づいて、藤井さんが教えてくれる。
「あの長身の人、なかなか男前でしょ。澁澤玲一郎。この近くにある湧水寺の息子よ」
 シルバーメタリックの自転車に乗っていた子は澁澤という名前らしい。彼の隣に座っている子も人目を引く子だ。栗色の髪と白皙の肌からすると、彼は外国の血が混ざった生徒なのだろう。
「澁澤の横にいる子もいけてるでしょ。あれはクリスよ。クリス・洸太郎・パターソンっていってアメリカ人と日本人のハーフなの。アメリカ人の父親は県内にある国立大学で英語を教えているわ。母親は高岡出身の日本人よ」
「へえ」
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