スノーフレークス
 私は感心する。私は一学期まで都会にある高校に通っていたけど、あそこにはあんな目立つ生徒たちはいなかった。彼らにカノジョがいるのかどうかききたかったけど、そんな下世話な質問をするのは気が引けた。変に誤解されたら嫌だし。
「男前だけど近寄りがたいやつだよね、澁澤って。愛想も無いし。理系クラスの人たちとはあんまり接点が無いから、彼らは別世界の人間って感じ」
 高瀬さんが言う。
「でも、クリスは話しやすいよね。明るいし、お茶目だし」
 佐伯さんが言う。
「ふーん、そうなんだ。彼は人気者なんだね」
「うん。クリスは男子からも女子からも、先生からも好かれているよ。でも、特定の彼女はいないみたい。誰にでもフレンドリーだけど、彼の中の聖域にまではなかなか踏み込めないのよ。これまで他校の女子が何人か告白したんだけど、クリスはオーケーしなかったみたいよ。澁澤もよその女子にコクられたけど、あいつはああいうクールな性格だから交際の申し込みは即却下したみたい」
 何だかよくわからないけど、いずれにせよ彼らは私とは縁のない高嶺の花なのだろう。

 放課後。朝ごはんの時にチェックしたチラシを思い出しながら、私はこれから向かうスーパー、フレッシュ市場で買う物のことを考えていた。冷蔵庫にある残り物のキャベツと一本二十八円の特売品のキュウリを組み合わせれば、かんたんな浅漬けが作れるだろう。三陸沖で生まれた母さんは魚が大好物だから、地物の魚で目玉商品があったら買っていこう。歯磨き粉が切れかかっているけど、それはドラッグストアのポイントが五倍つく金曜日に買うことにしよう。

「ちょっとお嬢さん。ちょっとちょっと!」
 私は生徒玄関の近くまで来ていた。頭の中で色々な野菜を思い描いていると、背後から男子生徒に呼びかけられた。
「ちょっと話を聞いてほしいんだけど」
 振り返ると、さっき食堂で見かけたクリス・洸太郎・パターソンが立っていた。
 彼の身長は百八十センチを少し越えるぐらいで、小さな白い顔がてっぺんにくっ付いている。その端正な顔に優美な笑みを浮かべながら、彼は私を見下ろしている。
 驚いた。私みたいな女と最も縁が遠そうな人が一体何の用なのだろうか。
「君、横浜からの転校生の日向さんでしょ」
 彼が私にたずねる。こんなモデルみたいな男の子が田舎の訛りでしゃべるのが面白い。
「ええ、そうだけど」
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