スノーフレークス
 クリスは話を変えた。

 部員の男子が一人やってきた。部室には古い旅館にあるようなソファとローテーブルが置いてあって、私たちはそこに座った。
「こちらは一年生の手島悠太君」
 クリスが紹介した手島君は、どう見てもせいぜい中学一年生にしか見えないほどあどけない男の子だ。身長は私と同じかそれよりちょっと低いくらいで、顔はおにぎりのような童顔だ。もし彼が近隣の市立中学に潜入しても正体はばれないだろう。「初めまして」と挨拶する声を聞くと、声変わりもまだ完全に終わっていないような感じだ。
「こちらは二年生の日向さん。横浜の高校からこの二学期に転校してきた」
 私は手島君に向かって軽く会釈する。私が横浜出身と聞いて手島君はちょっと感心したような表情を浮かべる。
「はい、スコーンと紅茶をどうぞ」
 クリスはローテーブルの上に紅茶の入ったマグカップ三つとミルクピッチャー、複数のスコーンが盛られた皿を置いた。スコーンに付ける苺ジャムとクロテッドクリームも用意してくれた。
「うわぁ、ありがとう」
 私たちは早速、干しブドウの入ったスコーンを一口かじった。私が「おいしい」と言うとクリスは優美な笑みを浮かべた。
「手島君は英語が好きだからこの部に入ったの?」
 私は一級下のあどけない少年にたずねる。
「いいえ。英語はそんなに好きではありません。僕は理系だから数学や物理が好きなんです」
 数日前から先輩になった私に手島君は礼儀正しく答える。
「言っただろ。英語ができなくても全然大丈夫だって」
 クリスが念を押す。
「じゃあ、苦手な英語を上達させるためにここに入ったの?」
 こんないかにも緩そうな英語部に入ったところで、英語力が向上するとは思えないけど。
「いいえ、そういうわけでもないんです。僕は居場所というか、安らぎの場所を求めてこの部室に通っているんです。いわゆる避難所っていうやつを求めて」
 英語は得意ではないと言うわりには難しい単語を知っている。さすが古城の生徒だ。
「リフュジ?」
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