スノーフレークス
 私はクリスの端正な横顔をまじまじと眺めた。この人ってば顔だけじゃなく性格も男前なんだと私は思った。こんな大人みたいな気遣いをする高校生、前の学校ではついぞお目にかかったことがない。

「クリストファー」
 その時、男子生徒の低い声がした。ガラガラと引き戸を開けて、長身の男子がまた一人、部室の中に入ってきた。カバンとMTB用ヘルメットを抱えている彼を見て、昼間、食堂で見かけた人だとすぐにわかった。確か渋澤っていう名前だったはずだ。
「おやつがあるって言ってたよな。体育で腹が減ったんだ。俺にも分けてくれないかな」
 渋澤君がクリスにたずねる。
 ソファの所に来た彼は、新参者の私を見つけてその涼しげな目を凝らす。こんなにも美しい切れ長の目に、まともに自分の目を合わせることなんかできない。凛としていて、意志の強そうな澄んだ瞳だ。
「ちょうどいい、日向さん。もう一人紹介するよ」
 クリスがクラスメートを紹介する。
「我が部の幽霊部員にして、僕のことを正式名称で呼ぶ唯一の級友、澁澤玲一郎君だ」
 曰く、クリスは「略称」でクリストファーが「正式名称」らしい。自分を紹介された澁澤君は軽く会釈をして、すぐにそっぽを向いてしまった。
「玲一郎。こっちは転校生の日向さんだ。文系の三組に入った」
 私も控えめに会釈を返した。
 四人組が評していたとおり、彼には愛想が足りていないようだ。でも、陰険な感じはしない。彼はただシャイなだけのような気がする。
 澁澤君は私たちのいる所から少し離れてスコーンを食べている。よほどお腹がすいていたのか、ほんの十秒ほどでそれをたいらげてしまった。
「ありがとう。うまかったよ。アイリス先生にもお礼を言っておいてくれ」
 澁澤君はそう言うとすばやくバッグを持ち上げ、武道場へ部活の練習をしにいった。あっという間の退場だった。
「見てのとおり、彼はああいう男なんだ。でも悪いやつじゃないから時々仲間に入れてやってほしい」
 クリスは友人をフォローする。
 風変わりな男子生徒に誘われて、冷やかしでESSに来てみただけだったけど気が変わった。私はこの部活に入るだろうと確信した。
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