スノーフレークス
二
二
転校生として注目を浴びたのはほんの束の間のことだった。九月と十月の二ヶ月間、私の毎日は淡々と過ぎ去っていった。
クリスが二年生ながら部長を務めるESSには、授業が六限で終わる火曜日と木曜日と金曜日に顔を出していた。七限目まである日は、学校が終わったらすぐにスーパーに買い物にいかないといけない。
理系の秀才である手島君に理系教科を教わって、日英のバイリンガルであるクリスに英語の宿題を手伝ってもらっているお陰で、授業で危ない目にあうことはない。
手島君には一つ年上であるプライドをかなぐり捨てて教わっているが、彼は二年生でやる数学の内容も理解している。教科書をちょっと読むだけで内容を把握し、「ここはこういう理屈なのだ」と説明してくれる。中学生みたいな顔をして大した秀才である。
なんでも数学の問題を最も効率的に説く方法は、最初に模範解答を見ることなのだそうだ。確かに、時間をかけて自分で正答にたどり着くのは爽快なことなのだが、それは時間の無駄なのである。模範解答を読んでから、改めて解答への道筋をたどるのが経済的なやり方らしい。
クリスには高校英語の難所、仮定法について懇切丁寧に教えてもらった。この文型ときたら助動詞の使い方がややこしい上に、倒置型なんていう変形バージョンまで出てくる。ちなみに、英文法を教える時の彼の口癖は「こんな表現、ネイティブは使わないんだけどさぁ」である。
高校英語の勉強法に王道は無い。英文法を覚えるのと同時に、ひたすら単語と構文のストックを増やすのみである。
ESSの部員に家庭教師をしてもらっているお陰で、多くの古城生(古城高校の生徒の呼称である)が通っている駅前の黎明予備校には行かなくてすむ。それに、今のところあの親切な四人組の助けを借りる必要もない。家事労働に時間をとられる私には本当にありがたいことだ。彼らのお世話になってばかりいるのは心苦しいので、私も顧問のアイリス先生のように焼き菓子を焼いてきて部に差し入れをしている。
幽霊部員の澁澤君とは週に一回くらい部室で会う。部活の練習前に栄養補給をしにくる彼が、私の焼いたパウンドケーキを食べることがある。そんな時はぶっきらぼうな調子で私に「ありがとう」とお礼を言ってくれる。