スノーフレークス
 四人組のように彼のことをよく知らない人たちは、彼のことを無愛想だと思うのだろうけど、彼は彼なりに気を遣っていることが私にはわかる。澁澤君が彼らしいとても端的なお礼の言葉を述べる時、なんだかこそばゆい気持ちがするのは気のせいだろうか。

 顧問のアイリス・ニールセン先生もちょくちょく部室に顔を出す。外国語指導助手の彼女は二十四歳の北欧系アメリカ人で、黄金色の髪とその名のとおりアヤメ色の瞳を持つ美人だ。イギリスのケンブリッジに留学していた時に、英国名物のスコーンの焼き方を覚えたのだという。彼女のように一流校を出たALTは、小学校や中学校ではなく進学高校に派遣されるそうだ。
 アイリス先生は片言の日本語も話せるけど、クリスと英語で話すことで母国語への渇きを癒している。日本人のお局英語教師の愚痴を言っている時もあるらしい。
 古城高校のESSは私たちのオアシス的な場として機能している。英語の弁論大会に向けて練習するなんてことは一切していないが、この部にはその名称の裏に隠れた存在意義みたいなものがある。白い夏服から合服に衣替えをする頃、私は胸の中にある計画を抱き始めていた。

 二年三組の教室にいる時、私は斜め前方の席に座る氷室翠璃の様子を観察していることがある。
 彼女はとてもきれいな子だ。この地方の人間らしく、肌理細やかで抜けるように白い肌を持っている。クリスやアイリス先生の桃色を帯びた肌の色とは違って、彼女の肌は混じりけのない雪の色をしている。私の小麦色の肌とは対照的な色だ。
 瞳の色がまた独特である。一見すると茶色いけど、光の加減によってそれは緑色にも灰色にも見える。間近で見ると、虹彩がブラウンとグレー、グリーンの粒で構成されているのがわかる。クリスの目の色とよく似ている。こういう白人のような瞳の色は、東北や北陸の人によく見られると聞いたことがある。
 普通、こういう色素の薄い人は髪の色も薄いものだが、氷室さんの髪の色はカラスの濡れ羽のような見事な漆黒である。髪の黒さが肌の白さを強調している。腰の方まで真っすぐに伸びている黒髪だ。これまた、私の短いくせ毛とは対照的だ。
 その体型は長身痩躯である。百六十五センチをゆうに越える彼女は、クラスの女子の中で頭一つ飛びぬけている。背の高さのわりには顔が小さく、モデルのような八頭身だ。
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