スノーフレークス
「氷室さんは? 着替えとか大丈夫だったのかしら……アイタタタ」
 鋭い痛みが再び私の頭を襲う。
「ほらほら。今はじっとしていなさい。もうすぐお父さんが来られるから、それまでここで休んでいなさい」
 意識が途切れた後のことがわからなかったけど、私の体調と先生の言葉が思考を中断した。私は布団に入って、父さんが来るまでもう一眠りした。

 それから私は四日間学校を休んだ。こういう状態なので、地理のノートの再提出は締め切りを延長してもらえた。父さんに似て体は丈夫な方だと思っていたけど、十月末の池の冷たさはさすがに体に堪えた。
 父さんは母さんに私と別の部屋にいるように助言していたけど、母さんは自分のできる範囲で私の看病をしようとしてくれた。母さんは何度かおかゆを私の部屋まで持ってきてくれた。やっぱり母さんの作ったものはおいしかった。
 
 病気から回復した私は五日ぶりに登校した。四日間分の授業のロスが不安だったけど、世話好きな谷口さんが自分のノートをコピーさせてくれた。いつか、谷口さんにもお礼のお菓子を焼いてこようと思う。
 氷室さんも登校していた。夏場のグラウンドで倒れてしまった彼女のことだから、てっきり私のように風邪でもひいたのかと思っていたのに、彼女はピンピンしている。あれから学校を欠席した様子もない。

 私は昼休みに渡り廊下で彼女に話しかけた。
「こんにちは、氷室さん」
「こんにちは」
 彼女は私の顔を見上げると無表情で挨拶を返した。
「この前は助けてくれてありがとう。あなたがいなかったら、あの時どうなっていたか」
「どういたしまして。あなたこそ体育の時に私を助けてくれたそうじゃない。あの時のお礼よ」
 氷室さんが穏やかな声で言う。
「どうしてそれを?」
「後で母が教えてくれたのよ。母は保健室の先生からあなたのことを聞いたみたい」
「そう」
 私は転校したばかりの頃の暑い一日を思い出す。
「氷室さん、体の方はどう? あんなに冷たい所に飛び込んで風邪とかひいてない? 私だってあれから熱が出たのよ」
「あなたはしばらく学校を休んでいたわね。幸い、私の方は大丈夫だったわ」
「そうだったの。それを聞いて安心したわ」
< 26 / 85 >

この作品をシェア

pagetop