スノーフレークス
練習が終わってから、澁澤君が武道場を出て歩いてくるのが見えた。彼は長身だから遠くから見てもすぐにわかる。私は彼に駆け寄った。
「澁澤君。ちょっといい?」
私は彼に声を掛けた。彼とはESSの部室でよく顔を合わせていたけど、一対一で話すのは初めてだ。彼はいつもの涼しげな瞳で私を見下ろす。
「いいよ。僕もちょうど日向さんに用があるし」
「用?」
「はい、これ。落し物。探してたんだろ」
澁澤君はカバンの中からしなびた紙片を差し出す。
「あ、これは!」
それは五日前に私が問わず語りの池で落とした地理のプリントだった。池の水に濡れたプリントは歪んでしまったけど、幸い、私の書き込みは消えていなかった。私は澁澤君の手からそれを受け取った。
「どうもありがとう。どうやってこれを?」
「拾ったんだ」
「どこで?」
まさか「地面の上で」なんて答えるんじゃないだろうか。
「裏庭の池に浮かんでいたよ。そこらへんに落ちていた長い木の枝を使って引き寄せたんだ。それはだいぶ岸の方に寄っていたから、かんたんに拾い上げることができたよ」
「そうだったの」
彼は私が試みたのと同じ方法を使って、見事にプリントをすくい上げることができたのだ。
「実は私、地理の宿題が再提出になっちゃったのよ。あの日からしばらく風邪をひいていたから、地理の先生には猶予をいただいているんだけど、このプリントがなかったから焦っていたのよね」
「そうか。見つかって良かったな」
澁澤君はそのすっきりした顔に笑みを浮かべる。普段は愛想のない彼が笑うととてもチャーミングだ。
「それから保健室の先生に聞いたわ。あの時、私を担いで保健室まで運んでくれたんだってね。そのことについてもお礼を言うわ」
「どういたしまして」
「ねえ。あの時、どうして裏庭の池に来たの?」
私は澁澤君に疑問をぶつける。
「たまたま通りかかったんだよ」
「たまたま? 裏庭に何をしにいったのよ」
「何も。ただ散歩していたのさ」
「散歩ねえ」
成績優秀者のリストに名を連ねる澁澤君が、成績不振であの池に引き寄せられるなんてことはないだろう。
「じゃあ、あの時氷室さんとはどんなことをしゃべったの?」
私はさらに質問をする。
「澁澤君。ちょっといい?」
私は彼に声を掛けた。彼とはESSの部室でよく顔を合わせていたけど、一対一で話すのは初めてだ。彼はいつもの涼しげな瞳で私を見下ろす。
「いいよ。僕もちょうど日向さんに用があるし」
「用?」
「はい、これ。落し物。探してたんだろ」
澁澤君はカバンの中からしなびた紙片を差し出す。
「あ、これは!」
それは五日前に私が問わず語りの池で落とした地理のプリントだった。池の水に濡れたプリントは歪んでしまったけど、幸い、私の書き込みは消えていなかった。私は澁澤君の手からそれを受け取った。
「どうもありがとう。どうやってこれを?」
「拾ったんだ」
「どこで?」
まさか「地面の上で」なんて答えるんじゃないだろうか。
「裏庭の池に浮かんでいたよ。そこらへんに落ちていた長い木の枝を使って引き寄せたんだ。それはだいぶ岸の方に寄っていたから、かんたんに拾い上げることができたよ」
「そうだったの」
彼は私が試みたのと同じ方法を使って、見事にプリントをすくい上げることができたのだ。
「実は私、地理の宿題が再提出になっちゃったのよ。あの日からしばらく風邪をひいていたから、地理の先生には猶予をいただいているんだけど、このプリントがなかったから焦っていたのよね」
「そうか。見つかって良かったな」
澁澤君はそのすっきりした顔に笑みを浮かべる。普段は愛想のない彼が笑うととてもチャーミングだ。
「それから保健室の先生に聞いたわ。あの時、私を担いで保健室まで運んでくれたんだってね。そのことについてもお礼を言うわ」
「どういたしまして」
「ねえ。あの時、どうして裏庭の池に来たの?」
私は澁澤君に疑問をぶつける。
「たまたま通りかかったんだよ」
「たまたま? 裏庭に何をしにいったのよ」
「何も。ただ散歩していたのさ」
「散歩ねえ」
成績優秀者のリストに名を連ねる澁澤君が、成績不振であの池に引き寄せられるなんてことはないだろう。
「じゃあ、あの時氷室さんとはどんなことをしゃべったの?」
私はさらに質問をする。