スノーフレークス
私たちは横浜からポンコツのホンダ車を持ってきた。地方では車が無いと生活できないと聞いていたが、幸い、私が転入する学校も父さんの新しい職場も自転車で通える距離にある。父さんはマウンテンバイクを買って、雪が降らない時期はそれで通勤しようとしている。「自転車は体にいいからお前も自転車で通学してみろ」と彼は言うから、私もそうしようと思っている。横浜にいた時は電車通学をしていたけどこの町ではその必要はない。
中田さんは私が転入する学校選びにまでものすごい配慮をしてくれた。私がこの二学期から入るのは県立古城高等学校という、富山県でも指折りの名門進学校なのだ。私が横浜で通っていたのはごく普通の公立高校で、私の成績も平均的なものだった。わざわざ都落ちをしてくれる部下の娘のために、顔の広い中田さんは教育委員会のえらい知り合いに便宜をはかってもらったのだ。
旧制中学を前身とするこの高校は、高岡城の城址である古城公園に隣接している。毎年二桁の生徒を東大へ、数百名の生徒を国立大学や有名私立大学に送り出している進学校だ。高校を出たら中堅の私大か専門学校にでも進もうと思っている私がこんな学校に入っても、勉強についていけるかどうかわからない。
私がその不安を中田さんに打ち明けると、彼は「君は家のことをしなければならんのだろ? だったら最寄りの高校に行きなよ。君の新居の近くには県立の工業高校もあるけど、君は物作りや理系教科は好きかい?」とたずねた。そうきかれると、理科や数学が苦手でぶきっちょな私は困ってしまう。普段、病弱な母さんの代わりに家事をしているから料理は得意なんだけど、プラモデルを組み立てたり工芸品を作ったりするのは苦手だ。そういうわけで、私は否応なしに分不相応な名門高校へ転校することになった。
九月一日は朝からかんかんに暑かった。
新しい制服を着た私を見て父さんがつぶやいた。
「こりゃまたえらくクラシックな制服だな。城址高校だっけ?」
「古城高校よ、父さん」
中田さんは私が転入する学校選びにまでものすごい配慮をしてくれた。私がこの二学期から入るのは県立古城高等学校という、富山県でも指折りの名門進学校なのだ。私が横浜で通っていたのはごく普通の公立高校で、私の成績も平均的なものだった。わざわざ都落ちをしてくれる部下の娘のために、顔の広い中田さんは教育委員会のえらい知り合いに便宜をはかってもらったのだ。
旧制中学を前身とするこの高校は、高岡城の城址である古城公園に隣接している。毎年二桁の生徒を東大へ、数百名の生徒を国立大学や有名私立大学に送り出している進学校だ。高校を出たら中堅の私大か専門学校にでも進もうと思っている私がこんな学校に入っても、勉強についていけるかどうかわからない。
私がその不安を中田さんに打ち明けると、彼は「君は家のことをしなければならんのだろ? だったら最寄りの高校に行きなよ。君の新居の近くには県立の工業高校もあるけど、君は物作りや理系教科は好きかい?」とたずねた。そうきかれると、理科や数学が苦手でぶきっちょな私は困ってしまう。普段、病弱な母さんの代わりに家事をしているから料理は得意なんだけど、プラモデルを組み立てたり工芸品を作ったりするのは苦手だ。そういうわけで、私は否応なしに分不相応な名門高校へ転校することになった。
九月一日は朝からかんかんに暑かった。
新しい制服を着た私を見て父さんがつぶやいた。
「こりゃまたえらくクラシックな制服だな。城址高校だっけ?」
「古城高校よ、父さん」