スノーフレークス
私がたずねると小さな男の子は頭を振る。
「ううん。僕のお父さんはお侍だよ」
「お侍?」
この子どもはまたしても私をからかおうとしているのか。
「うん。お父さんはとってもえらい人なんだよ。でも僕の家族はもうどこかに行っちゃった。今、僕は一人ぼっちなんだ」
この子はよくわからない話をする。よその家からこのお寺に預けられている子どもなのだろうか。
「そう。あんたは寂しい子なんだね。でも、こんな時間よ。私もあんたとは遊んであげられないわ。明日も学校があるんだし子どもはお部屋に帰って寝なさい」
学校があるのは私も同じだ。私の言葉を聞いて男の子はしゅんとした。
「うん。わかった。お休みなさい、お姉さん」
男の子はそう言うと暗がりの中に消えていった。その刹那、彼の体を通して床の間の掛け軸が透けて見えた。
私は目をこすった。夢でも見ているのだろうか。オカッパ頭の男の子はまるで幽霊のように空気の中に溶けていったではないか! 「まるで幽霊のようだ」というよりも「本当に幽霊だ」という方が正しいのだろうか。でも不思議と恐ろしい気持ちにはならなかった。
まったくとんだ一日だ。先刻、氷室さんたちのただならぬ姿を見たと思ったら、数時間も経たないうちに別のお化けに遭遇してしまうなんて。あんな不思議な子が入ってくるなんて、本当にこの屋敷には結界が張ってあるのだろうか。
あれこれ考えているうちに私は再び眠りの中に引き込まれていった。
翌朝。私は朝早く起きて身支度を整えた。
私は障子の戸を開けた。窓の外はまだ薄暗いけど雪はすっかり止んでいた。
私は六畳間を出て居間の方に向かった。本堂の方から澁澤君のお父さんが朝のお勤めで読経している声が聞こえる。
居間に着くと、首にタオルを巻いた澁澤君にばったり会った。スウェット姿の彼はシャワーを浴びたばかりのようで白皙の肌が上気している。
「おはよう」
澁澤君が挨拶をする。
「おはよう、澁澤君。昨夜はありがとう」
私は彼にお礼を言う。
「ああ、どういたしまして。僕らは今さっき戻ってきてシャワーを浴びたところなんだ」
「それはお疲れ様。寒い所で何時間も待機させちゃって申し訳なかったわね」
「何てことはないさ」
澁澤君はそっけなく言う。
「あいつらは君の家には来なかったよ。君の家族に手を出そうとまでは考えてないみたいだな」
「そう」
「ううん。僕のお父さんはお侍だよ」
「お侍?」
この子どもはまたしても私をからかおうとしているのか。
「うん。お父さんはとってもえらい人なんだよ。でも僕の家族はもうどこかに行っちゃった。今、僕は一人ぼっちなんだ」
この子はよくわからない話をする。よその家からこのお寺に預けられている子どもなのだろうか。
「そう。あんたは寂しい子なんだね。でも、こんな時間よ。私もあんたとは遊んであげられないわ。明日も学校があるんだし子どもはお部屋に帰って寝なさい」
学校があるのは私も同じだ。私の言葉を聞いて男の子はしゅんとした。
「うん。わかった。お休みなさい、お姉さん」
男の子はそう言うと暗がりの中に消えていった。その刹那、彼の体を通して床の間の掛け軸が透けて見えた。
私は目をこすった。夢でも見ているのだろうか。オカッパ頭の男の子はまるで幽霊のように空気の中に溶けていったではないか! 「まるで幽霊のようだ」というよりも「本当に幽霊だ」という方が正しいのだろうか。でも不思議と恐ろしい気持ちにはならなかった。
まったくとんだ一日だ。先刻、氷室さんたちのただならぬ姿を見たと思ったら、数時間も経たないうちに別のお化けに遭遇してしまうなんて。あんな不思議な子が入ってくるなんて、本当にこの屋敷には結界が張ってあるのだろうか。
あれこれ考えているうちに私は再び眠りの中に引き込まれていった。
翌朝。私は朝早く起きて身支度を整えた。
私は障子の戸を開けた。窓の外はまだ薄暗いけど雪はすっかり止んでいた。
私は六畳間を出て居間の方に向かった。本堂の方から澁澤君のお父さんが朝のお勤めで読経している声が聞こえる。
居間に着くと、首にタオルを巻いた澁澤君にばったり会った。スウェット姿の彼はシャワーを浴びたばかりのようで白皙の肌が上気している。
「おはよう」
澁澤君が挨拶をする。
「おはよう、澁澤君。昨夜はありがとう」
私は彼にお礼を言う。
「ああ、どういたしまして。僕らは今さっき戻ってきてシャワーを浴びたところなんだ」
「それはお疲れ様。寒い所で何時間も待機させちゃって申し訳なかったわね」
「何てことはないさ」
澁澤君はそっけなく言う。
「あいつらは君の家には来なかったよ。君の家族に手を出そうとまでは考えてないみたいだな」
「そう」